雨が降ると、普通の人は何となく気分が重くなっていくらしい

 でも、僕にとっては雨なんか気にも留まらないことなんだ



 ただ走ってるだけなんだけど

 それがこんなにも楽しいなんてね





 17.Because, you stay in side.





「一限目って、なんだっけ?」

「変身術よ。早めに行って、席を取っておきましょ」

 うん、と頷いては立ち上がった。

 今朝の大広間の天井は、外の天気をそのまま映したような曇り空だ。

「お昼ごろには、外は雨ね」

 隣でリリーが立ち上がる。

 彼女が鞄をとる間、は天井をじっと見ていた。

「大広間の天井ってさ、雨にすることはできないのかな?」

「そんなことしたら、皆ずぶ濡れよ?」

 天井を見上げたまま、うー、と唸る。

「でもたまにはこう、景気よく!」

「ご飯も濡れるわよ」

「それはヤダ」

 真面目な顔でそう答える。

 しかし次の瞬間、自分の言ったことに笑ってしまった。

 そんなにつられてリリーも笑った。

「そういえば、ジェームズ達は朝ごはんも食べずに何やってるのかしら」

 扉を開け、ホールに出ながらリリーが言う。

 は後ろのグリフィンドール席を振り返った。

「そういえばそうだねぇ・・・・・・寝坊かな?」

「五人揃って? まさか! も居るのよ?」

 二人の靴音は、移動する生徒の喋る音で掻き消える。

「でも、朝は苦手って言ってたよ」

 リリーが勢いよく振り返る。

「え、そうなの?」

 目をパチパチと瞬かせ、は頷いた。

「うん。リーマスも駄目なんだって。

最初の頃とか、早起き頑張ってたみたい」

「じゃああの部屋、毎朝大変なんじゃない? あの三人なんか、起こされるまでずっと寝てそう」

 ジェームズの顔を思い浮かべて、は笑った。

 ピーターが寝坊するのは、よくあることだ。

 そこで、シリウスの顔が浮かぶ。

「あ、でもシリウスは朝早いよ」

「シリウスが?」

 一つ頷く

「身支度とか、すっごく時間かけるもん」

「意外だわ・・・・・・だって、制服だって着崩してるじゃない?」

「でもそれなりになってると思うよ。シワもないし、染みが付いてるのとか、見たこと無いでしょ?

おば様、えっと・・・・・・シリウスのお母様がね、そういうの厳しい方だから」

 リリーは呆気にとられて、しばらく口を開けたままだった。

「ほんとに、お坊ちゃまなのねぇ・・・・・・」

「ほんとにお坊ちゃまなんだよ」

 は、天気の話をしているような気楽さで言った。

 リリーにとっては非日常の世界であっても、にとってはそれが日常なのだ。







「あ」

 リーマスが階段の下を覗いて、呟いた。

 肖像画の裏の抜け道からシリウスが這い出てきた。

「ここ五階に繋がって・・・・・・どした?」

 手すりに肘を掛け、リーマスは楽しそうに下を覗いている。

「ん? いや、うちのお姫さま方が居るからさ」

 楽しそうだなって思って、と付け加えて、下を指差した。

「あ? 姫?」

 シリウスは肖像画から離れて、一緒に階段の下を覗く。

 丁度、大きな階段が移動したところだった。

「リリーとだよ、ほら」

 リーマスの指差す先に、確かに二人は居た。リリーは柄にも無くぽかんと口を開けている。

 ポケットに手を入れると、丁度小さな飴玉が入っていた。

 シリウスはそれをしっかり握り締めた。

「ちょっと、なにやってんのシリウス」

 驚いている鳶色の瞳には答えず、シリウスは手首のスナップを利かせて飴を投げた。

 綺麗な放物線を描いて、飴玉が飛んでいく。

 こつん

 が頭に手をやった。



「うみー・・・・・・」

「大丈夫? 何コレ、飴玉?」

 リリーが上を見上げた。

「よう」

 シリウスは片手を上げた。

 リーマスが横から身を乗り出す。

ー、大丈夫ー?」

 頭をこすっていたが、上を見上げた。

「痛いー。リーマ・・・・・・まさかね。シリウスの馬鹿ー」

「何でそこで言い直すんだよ!」

 シリウスが思い切り抗議の声を張った。

 下では、腰に手を当てたリリーが言い返す。

「だってねぇ、リーマスがこんなことやるなんて思わないもの」

 キッとリーマスを睨むと、彼は気の良い笑顔でさらっと言った。

「人徳かなぁ」

「おい」

 それを見ている女の子二人は、クスクスとおかしそうに笑った。

 やがてリリーが顔を上げた。

「一限目は変身術よ、遅れないようにね」

 シリウスの顔色が変わる。マクゴナガルの顔でも浮かんだのだろう。

「変身術!? やっべぇ、おいリーマス、あいつらどこだよ」

「分かんない、けど向こうも一限の内容分かってないと思うよ」

 下の二人に向かってリーマスが手を振った。

「教えてくれてありがとう、後で教室でね。シリウス、行こう」

「またな」

 見つけたばかりの抜け道に、リーマスが先に立っていく。

 後を追おうとするシリウスの背にが声を掛けた。

「シリウスー」

「んあ? どーした?」

 先ほどの飴玉を手に、シリウスを見上げていた。

「これ、ちょうだい」

「好きにしろー」

 下の階から、やったーという歓声が聞こえた。







 は、ジェームズ、ピーターと共に、厨房探しをしていた。

 シリウス、リーマスもそうだったのだが、彼らはまた別の道を見つけていたのだ。

「闇雲に捜しても・・・・・・」

 ピーターが眉尻を下げて呟いた。

「分かるよ、その気持ち」

 苦笑いするは、肖像画と言い争っているジェームズの肩を叩いた。

「なんだよ、少しくらい教えてくれたって・・・・・・ん? 何? 

「ジェームズ、キリがないよ」

「でもさ」

 言い募るジェームズの耳に口を寄せ、はこっそり言った。

 ピーターも耳を寄せる。

「この人は頭固いんだって。カレッジが言ってた」

「じゃあそのカレッジは?」

 ピーターが顔を向けると、は微笑む。

「一限が何だったか調べに行ったよ。そろそろ戻ってくると思うんだけど・・・・・・」

! ジェームズ! ピーター!」

「おい! やべーぞ!」

 カレッジが戻ってくるよりも早く、リーマスとシリウスが息を切らして走ってきた。

「あ、お帰りー」

「何だよ、何かあった?」

 明るい笑顔を見せて、ピーターがのん気に手を振る。

 ジェームズは眼鏡を指で押し上げながら、シリウスに視線を合わせた。

 シリウスはジェームズの肩を揺すりながら、ただひたすらにヤバイと言い続けている。

「どうしたのシリウス。何がヤバイって?」

 膝に手をついて息を整えるリーマス。その背を軽く叩くは聞いた。

とエバンスに会ったんだけどよ・・・・・・」

「えっ!? いいなあ!」

「はいはい。で?」

 苦笑いをして、ピーターがジェームズを諫める。

 意外そうに見返しながら、リーマスは後を継いだ。

「うん。一限、変身術だって」

 の手が止まり、ピーターの苦笑いが引きつった。

 凍りついた表情で、ジェームズは聞き返す。

「・・・・・・マジですか」







 変身術の教室を目指して、五人は城内を全力疾走した。

 先頭を行くジェームズが、突然思い出したように振り返る。勿論、走ったままだ。

「ねぇ! 君クィディッチの選手に立候補しない!?

来年度、二人か三人分空きが出るらしいんだ! どう? 僕らで埋めてみない?」

 聞かれたは、ジェームズが廊下の中心を逸れていっているのに気がついた。

「ジェームズ! 前見て! 前!」

 え? と言ったときには既に遅く、ジェームズは頑丈な鎧に激突した。

 丁度、鐘が授業開始を告げる。

「自業自得だ、馬鹿!」

 そう言ってシリウスは気にも留めず、笑いながらどんどん先に行ってしまう。

 しかしジェームズはすぐに、哀れんだ表情をしているの横まで走ってきた。

「シリウスめ、覚えてろよ・・・・・・、さっきの話だけど」

「あ、うん。あのね、後継者は選手になれないんだ」

「そんなぁ!」

 ジェームズが眉尻を下げて落胆する。

 リーマスは軽く振り返った。

「正式に何処の寮にも入ってないから?」

 うん、とは頷いた。

 気落ちするジェームズを、やっと追いついてきたピーターが励ます。

「ジェームズ、ドンマイ。でも誘ってみたら?」

「そうだよ、それがいい」

 も背中を叩いた。

 変身術の教室の扉に手を掛けて、シリウスが四人を待っている。

「おい、ジェームズ。俺も誘えよ」

「やーだね、僕を見捨てる人なんて」

 扉を開けながらシリウスが慌てた。

「悪かったって! ほんと!」

「もう少し丁寧な言葉遣いで謝っていただきたいものですね、ミスター・ブラック?」

 シリウスとピーターが、げ・・・・・・という顔をした。

 リーマスとは、首を左右に振った。

 ジェームズは一人でマクゴナガルの前に進み出る。

「そうすれば許して頂けるんですね? さっすが先生! 寛大なお心をお持ちだ」

 クラスの生徒が一斉に笑った。

 明らかに大きな溜め息を吐いて、マクゴナガルは空いている席を示した。

「私を口説こうなんて、十年早いですよポッター。早く席にお着きなさい」

「はい、先生」

 ジェームズを先頭に、五人は席に向かう。

 マクゴナガルに頭を下げたのは、結局リーマスとだけだった。



 空いていた席のその前列に、とリリーは座っていた。

「もう! 遅れないようにって言ったでしょう!」

 小声で、リリーは厳しくシリウスに言った。

「仕方ねぇだろ、遅れちまったもんは」

「猫の方が、来るの早かったねぇ」

 笑うを見て、それからは彼女の隣を見た。

 カレッジが顔を上げて主を見た。

「お前ら抜け道使ったのか」

「うん、そう。ちょっとね。ありがとうカレッジ」

「ったく・・・・・・俺はてっきり普通の道使ってるとばっか思ってたぜ」

 は苦笑いしてカレッジを撫でた。

「そうだ! ねぇねぇ、!」

 マクゴナガルの鋭い視線に身を竦めながら、ジェームズがの方に首を伸ばした。

「なぁにー?」

「来年度、クィディッチチームに二人か三人分空きが出るんだって」

 が珍しく、笑顔以外の表情を見せた。

 目を真ん丸に見開いた。

「ほんとう?」

 ジェームズはニッと笑う。

「ホントホント。どう? 僕とシリウスと君で、そこを埋めてみない?」

 思い切り首を縦に振る

「やる! やりたい! ねぇ、二年生になったら、箒持ってきていいんだよね?」

「そうだよ。はどこの箒にする?」

 んー、と唸って、しかしにこにこしながらは考える。

「まだ決めてないけど・・・・・・シルバーアローがいいな。ジェームズは?」

「僕はニンバスにするんだ。絶対にニンバス1000」

 ジェームズがきっぱりと言い切ったとき、マクゴナガルが遂に雷を落とした。

「そこの二人! しばらく立っていなさい!」

 タイミングよく、窓の外では稲妻が光った。





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